「………言ったろ。イノリはそんなに器用な人間じゃないって。…あいつは自分を許せないんだ。誰かに許して貰えないと許せないんだよ」


「許せないって子どもを作った事?でも生んだのはお姉さんの意思であってイノリは…」


「………そんな簡単な事じゃない。よく考えてみて、イノリの気持ちを」



ケンはカゼの言葉を聞いて、複雑な気持ちになった。






望まない子どもを作った罪悪感。

誰も守れない無力感。

愛する人に想いをぶつけられない苦しさ。




それを1人で抱えてきたイノリの気持ち。



考えるだけでケンは辛かった。




まだ経済力も世の中も知らない自分たちは、ただ幼なじみの存在に頼って、縋りながら安心している。



何故イノリがあの家を出たのか、何となくわかったケンだった。





「カゼは最近どうなの?」

「………俺は特に何も」

「お兄さんの奥さんの事、まだ好きなの?」




ケンがカゼを見ると、カゼは困ったように微笑んでいた。