「…っ!カゼ!!」

「………ん、どうした?」

「キヨを…宜しくな」



カゼは軽く頷くとイノリのアパートから出て行った。



イノリは1人になった部屋で、嫌なくらいの静けさを噛み締めていた。





「………ケン。俺が運転する」

「うぅっ…何でだよ〜俺の運転は安心出来ないってかぁ〜?」

「………うん。泣きながら運転するのは危ない」



カゼはケンを助手席に押しやると運転席に座りエンジンを掛ける。



ケンは窓の外からイノリのアパートを名残惜しそうに眺めていた。





「………イノリだけじゃない。俺らも考え直さないと。今のままじゃ幼なじみの存在に寄り掛かったままだ」



「俺は嫌だ。みんなといたいよ。

…どうしてだろうな、小さい頃はただ一緒にいるだけでよかった…それが全てだった。

それなのに、大きくなると愛とか誠実さとかよりも欲の方が強くなるのかな。…男と女という目で見るようになって、そこから絡まっていっちゃうのかな」



「………幼なじみだけではいられないんだね」





カゼとケンは、絡まり解れていく繋がりを確かに感じていた。




小さな頃は、みんなで一丸となって遊んでいるだけでよかった。



しかし大人になると

考え方も愛し方もみんな違ってきて、それぞれの道を歩き出していく。




幼なじみとか
馴れ合いとか


そんな繋がりよりも自分を優先するようになる。




人は誰かを自分の意思で留めておく事など出来ない。


だから離れていく心をどんなに必死に繋ぎ止めようとしても

それは絶対に無理なことである。






「イノリは本当にいいのかな。キヨに何も言わずに出て来ちゃったけど」


「………イノリなりの誠意なんじゃないかな。イノリは器用な人間じゃないからね」


「何をそんなに悔やんでるの?キヨのお姉さんの事?でも、お姉さんは結婚して今は幸せなんでしょ?イノリがあそこまで、自分を追い詰める必要なんてないじゃん」




ケンは外を見ながら呟く。