「…俺も恐い。キヨを好きになればなる程、自分が恐いんだよ。色々不安で仕方なくなるんだよ。向き合ってしまえば、いつか離れる事になるって…死ぬほど恐かった…。だから距離を作ってきた。なのに…何なんだよ、お前は」



「大丈夫だよ。イノリを見失わない限り追い掛けるから。私がイノリが作る距離を縮ませるから…恐がらなくていいんだよ。イノリを責め立てる物から私が守るから…」



「好きだキヨ。俺も物心ついた頃からお前だけを見てたよ」




イノリはキヨをベッドに押し倒すとキヨに被さった。



経験がないキヨは、緊張と不安で小刻みに震えている。

イノリはそんなキヨの仕草を愛しいと思った。




「キヨ…。震えてる」

「…ごめんね…。処女なんて重いよね…」

「いや、嬉しいけど」



イノリは震えるキヨの体中にキスの雨を降らす。




「お前が他の男に抱かれる方が嫌だ」




イノリがゆっくりキヨの中に入ると、キヨは初めて感じる痛みに顔を歪ませ、小さく悲鳴をあげると涙を流した。




「…キヨ…。大丈夫か?ごめんな。痛いよな…」

「イノリだからっ…大丈夫。幸せの方が大きいから…。ありがとう…イノリ…っ」

「…っ…お前可愛すぎ」




キヨが涙目で微笑むと、イノリも今まで見せた事ないほどの優しい顔で微笑んだ。



愛する人から与えられる痛みは、キヨにとって幸せだった。




「っ…!!ああああっ…」


痛くて、それに耐えるのに精一杯だったけど
微かに残る、それ以上の愛しい気持ち。



イノリが顔を歪めるところや

イノリが息を切らしながら私の名前を呼ぶこと。

いつもと違って、痛いくらい強く抱き締めてくれること。


そんな初めてのイノリの仕草が
愛しくて愛しくて、涙が出た。





でもね、
それと同じように悔しかったんだ。




私だけが知っていたいイノリの姿を

他の人も知っていると思ったら悔しくて仕方なかった。






「キヨっ…痛いのか?泣いてっけど…」

「違うっ…!嬉しいのっ」

「こんな時まで泣き虫なんだな、お前は」




ペロリとキヨの涙を舐めて微笑むイノリを見たキヨは、シーツを握り締めていた手をイノリの首に巻き付けた。


イノリも汗ばむキヨの体を抱き寄せる。

 


こんなに幸せな時間があるのかと想えるくらい甘い時間が流れる。



2人は抑えていた欲望をぶつけるかのように、ひたすらにキスを交わした。




「いのりっ…!!好き…っ!!…だいすきっ…!!」

「俺も…大好きだよ」




最後のイノリの漏らす甘い声を聞いた後、キヨは目を閉じ眠りに落ちた。









カーテンの隙間から薄日が射す頃、イノリはキヨを起こさないようにそっと起き上がった。


そのまま暫く、キヨの寝顔を見つめるイノリ。



「…ごめんな、キヨ。俺…」



イノリがキヨの髪を撫でると、眠っているはずのキヨが微笑んだ。




「…イノリ……」

「――っ…!!」




キヨがそう寝言を呟くと、イノリは口元を押さえ、声を押し殺して嗚咽した。





その小さな嗚咽をカゼ、カンナ、ケンは聞いていた。

嗚咽の意味を知る3人はその声に泣いた。







キヨはこの時、小さい頃から望んでいた物が手に入ったと幸せに包まれていた。




目が、覚めるまでは…