「…フラるのより辛い。想いを伝えられないのは何よりも辛い事だよ?中途半端な事されるくらいなら、フラれた方がよかったよ。イノリにわかる?この気持ち」



キヨが目を潤ませながら訴えかけると、イノリは煙草の火を消しキヨを抱きしめた。




「俺はお前を不幸にしたくないだけだ。お願いだから…幸せになってくれよ、キヨだけは…」




イノリはそう呟くと、キヨの細い肩に顔を埋めた。





「…イノリはバカだよ。救いようのないバカだわ」

「バカっていうな。キヨよりバカじゃねぇし」

「だってそうじゃない。私はイノリといられない方が辛い。想いを伝えられない今が1番不幸だよ」




キヨは顔をうずめるイノリの髪を撫でた。





「イノリ…好きだよ。ずっと物心ついた時から私はイノリだけを見てた。…やっと言わせてくれたね」



キヨがそう言うと、イノリは顔をゆっくり上げキヨを見つめた。

イノリの瞳は葛藤と闘っているように揺れていた。






一生繋がる事のない想いだったとしても

今ここで拒否されて砕ける想いだったとしても


イノリに伝えられた事で今までの全てが報われた気がするの。




物心ついてからの私の想いも
イノリとのこれまでの日々も、無駄じゃなかったんだって。




だけどね、
悲しそうな、困っているような、泣き出しそうな、答えに迷っているイノリの瞳が私に、何かを訴えかけている。 





「…何も迷わないで。私はイノリの全てを受け止めるから。ちゃんと向き合うから。…お願いだから距離を作らないで。これ以上離れて行ったら私はあなたを見失ってしまう。……恐いよ。イノリのいない世界が恐い」



「キヨっ…!!」




イノリは震えながら泣き出したキヨを強く抱きしめた。