「キヨ?どうしたの?…泣き足りない?」

「…違う。ケンがあまりにも優しいから…甘えたくなっちゃっただけ」




キヨがキツくケンにしがみつくと、ケンは内から込み上げてくる欲を感じた。





「…キヨ、俺と付き合う気がないなら離して。今ならまだ…抑えが利くから。俺はキヨが大切だよ?だから…無理はさせたくない」



ケンの言葉を聞いてもキヨはケンから離れなかった。



ケンはキヨの態度に、抑えていた理性が吹き飛んだ。


ケンはキヨの顎を上に向かせると、唇を重ねた。



報われないと思って口には出来なかった想いを吐き出すかのような、深いキス。

泣いたキヨの唇はしょっぱかった。




「時間がかかってもいい。俺が必ずイノリを忘れさせてあげるから」

「…うん。そうして欲しい。イノリの事なんて忘れさせて欲しいよっ…」



キヨはケンにしがみつくと、再び声を漏らして泣いた。





叶わないのなら
報われないのなら
振り向いて貰えないのなら


イノリの中で、お姉ちゃんの代わりとしか存在しないのなら…



イノリなんか忘れたい。




自分の気持ちに嘘をついたとしても
誰かに寄り掛かる事しか出来なくても
偽りの恋をする事になっても



私は誰かの代わりじゃないもの…








この時、カンナが呼び出したイノリが部室の前にいた事を2人は知らない。