祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

殴られたケンはフェンスにぶつかり、うずくまる。



「痛いよ、イノリ!加減ってもんがあるだろ!?」

「………騒ぐと見つかる」



カゼがそうボソッと呟くと、ケンはハッと口を手で覆う。



暫く風が草木を揺らす音だけが響く屋上。




「ねぇねぇ、卒業式って言えば告白じゃん?カゼ、女の子に群がられるんじゃない?ネクタイくれだの、写真撮ってくれだのって」

「………ネクタイか」



キヨ達の高校の制服は男女共にブレザーであり、男子はネクタイ、女子はリボンをつけている。


その為、卒業式に好きな男子や先輩のネクタイを貰うという習慣があった。




「うちの高校のブレザー、ボタン付いてないからネクタイしか貰えるものないものね」


「ボタンといえばさ、中学の卒業式の時、カゼの第2ボタン欲しがる子が凄い多くて5人で逃げ回ったよね」


「そうそう、懐かしいわ。結局カゼは第2ボタンをペンチか何かで2つに割って、私とキヨにくれたのよね」



キヨとカンナが中学校の卒業式の話をしていると、カゼはネクタイを外し口にくわえて引っ張った。




「は!?何してんだよ、カゼは」



いきなりビリビリとネクタイを引きちぎり出すカゼを、4人は唖然とした表情で見ていた。




「………はい」



カゼは2つに引き裂かれたネクタイをキヨとカンナに差し出す。




「カゼにとってキヨとカンナは大切な女の子だから、2人にネクタイあげたかったんだね」



ケンがそう言うとカゼは頷く。


感極まったキヨはカゼに抱きつき、カンナは嬉しそうにネクタイを握り締めた。






青空に近い屋上で、高校生活の最後を迎えた5人。




5人はチャイムの音が聞こえると教室へと向かった。