祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

キヨが走って向かった先はイノリの家。


キヨが家に着くと、コートすら着ていない薄着のイノリがキヨの家の前に立っていた。



「…イノリ?」



名前を呼ばれたイノリはビクッと肩を震わせると、振り向いた。


イノリはキヨが巻いているマフラーが、いつもカゼがしている物だと気付くと顔をしかめた。




「どうしたの?何か用だった?」

「…カゼと東京に行くんだってな。…もうさよならだな」



イノリは冷たい目つきでキヨを見る。




「やっとお前のおもりから解放されるな。せいせいするよ」

「…っ!なんでそんな事言うの?…イノリはそれで平気なの?」

「…あぁ、とっととカゼと行っちまえ」



イノリがそう言って家に入ろうとすると、キヨが大声で泣き出した。

驚いたイノリは振り向く。




「うあああんっ!!やだぁ!イノリがいないのは嫌だよぉぉ……」



キヨが顔を押さえながら涙を流していると、イノリは目をギュッと瞑って顔を上に向けた。




「何なんだよ、お前は。…勝手に東京行くって言ったり…カゼのマフラーしてたり。何がしたいんだよ!」


「だって…1人が嫌だったんだもん。誰とも離れたくないんだもん。……でもイノリと離れるのが1番嫌だ。でもね、新しい道を歩いて行こうとするイノリを引き止める権利なんて…私にはないもの」




イノリは下唇を噛むと駆け寄ってキヨを抱きしめた。


キヨから香るカゼの匂いが悔しかった。




「…勝手に俺から離れるな。そんなの許さない。許すわけないだろ」

「い…言ってる事がわからないよ」

「俺から離れていくなって言ってるんだよ。わかれ」



イノリはかじかむキヨの手を握ると、ハァッと息を吹きかけた。




「お前の手、冷た過ぎ。しもやけになるぞ」



イノリはゴシゴシとキヨの手を擦る。




「…イノリあったかい」



キヨは感じる事の出来るイノリのぬくもりが嬉しかった。



冷たい風から香るイノリの匂い。

イノリがここにいるのだと感じられる。