「北山が何考えてるのかわからないけど、俺は潔く諦めるよ。だから…清田さんを宜しくな」

「言われなくてもわかってる」



鈴木はハサミを拾いポケットにしまうと、窓の外を眺めるイノリを見ながら教室から出て行った。




「イノリ♪遅いから迎えに来たよ」



キヨが教室にやって来ると、イノリは窓際の壁に寄りかかって眠っていた。



キヨはイノリの顔を覗くと、イノリの頬から血が出ている事に気がつく。




「…?なんで怪我してるの?かすり傷みたいだけど」

「………ッ…」



キヨがタオルでイノリの頬を拭うと、イノリは痛そうに顔をしかめる。


キヨはそんなイノリの頬をペロッと舐めた。




「…へへっ、吸血鬼になった気分」

「ん〜…。やめろ…」



くすぐったそうに体を捩るイノリの仕草が可愛くて、キヨはギュッとイノリを抱きしめた。



外から聞こえる生徒達の声。
虫の音。



2人はそんな音に包まれながら、抱きしめ合っていた。





鼓動が聞こえるだけで幸せだった。

お互いの存在が感じられればよかった。



それだけで生きていけると思った高校最後の文化祭の夜。