イノリは鈴木をかわすが、鈴木が振り上げたハサミが頬を掠った。




「…俺が幸せ者だと?バカだな。お前は入学してからキヨを好きだって言ったけど、俺なんて物心ついた頃からだ」


「っ…!!物心って…。でも北山はいつも清田さんといられるじゃないか!!」


「存在が近すぎるっていうのはいい事ばかりじゃない。失う事が恐いから、例え触れられても男と女の線を越える事は許されない。…俺だっていい歳の男だぞ?辛いんだよ」



イノリの悲しそうな顔を見た鈴木は、ハサミを床に落とした。




「…お前がそんな想いをしてるなんて知らなかったよ。お前はいつも清田さん達と楽しそうに笑ってるから」


「あいつらといるのは純粋に楽しいよ。…でもそれは恋愛感情を無いものとして接してるから」


「清田さんも北山が好きだと思うぜ?北山も気付いてるんだろ」


「例えそうでも付き合えないんだよ。キヨだけはダメだ…」




イノリは暗いグラウンドに灯るキャンプファイヤーの炎を見つめた。


鈴木はキヨに対する自分の恋愛感情は、イノリに比べたら誇る物もないちっぽけな物だと感じた。




「悪いな、だからキヨは誰にもやれね。キヨが…いつか本気で好きな男が出来て、自ら進んで俺から離れて行かない限り、俺はあいつのそばにいるつもりだ。……そんな出来た男じゃねぇけど」



イノリの言葉に首を傾げる鈴木。




彼は何故自らの幸せを望まないのか。

それがわからなかった。