「キヨ、帰るぞ。もう諦めろ」



イノリの言葉にキヨは首を振る。



「…キヨ、猫は親の元に帰ったんだよ。だからいないんだ。お前も帰ろう。お前が帰らなかったらお前を心配した猫がまた家出しちまうぞ。な?」



キヨが小さく頷くとイノリはキヨの頭を優しく撫でた。



「いい子だ。エラいぞキヨ」

「うあああん!イノリっ…!!」



泣き出すキヨを抱っこすると、イノリは2人を待っているカゼ達の元へ歩いた。




「キヨは優し過ぎるのね。そこがいい所だけど」

「………イノリ、キヨのお父さんみたいだね。あ。お兄ちゃんって言った方がよかった?」

「なんでそうなるんだよ!!」

「キヨ寝ちゃったね」



月明かりに照らされた小さな5人は、ゆっくり歩きながら家に帰った。




思い出話をしていたキヨとイノリ。

するとイノリが小さく歌い始めた。



「〜小さなキヨ…麦わら帽子を追い掛けて〜迷子になって泣いていた〜♪」

「…何その歌。イノリは作詞の才能ないね」



キヨは顔を膨らますと、ブランコを高く漕ぎ始めた。




「♪泣き虫で甘ったれでバカでチビでどうしようもないキヨ〜…だけど……そんなお前がいい」



イノリがキヨを見ると、さっきまで自棄になってブランコを漕いでいたキヨはブランコの金具に頭を寄せ眠っていた。


イノリは夕日に照らされたキヨを見ながら、二度は歌えない適当な歌詞を適当な曲に乗せて歌い続けた。



イノリの優しい歌声は風に乗り、遠くに吹き飛ばされ消えた。




「キヨ。帰るぞ」

「ん〜…おんぶ…」



キヨが手を伸ばすと、イノリは困ったように笑いながらキヨを背負った。


夕日に照らされた影に追われながら、イノリは家路を歩き出す。




「本当にいつまで経っても変わらねぇな、キヨは。…それでいい。それでいいんだお前は」



イノリは愛しい重みを背中に感じながら、蛙や虫達が鳴く畦道を歩いていた。


地元で向かえる最後の夏になるとも知らぬまま。




明日から新学期が始まる。