祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

「…は?…え!?お前っ…」



イノリは目を見開いて川を見る。




「バカ!何すんだよ!!ふざけんな!!」

「イノリがいけないんだっ!!」

「意味わかんねぇ。…キヨなんか大嫌いだ」



イノリはキヨを睨むと川に入り、ゲーム機を取った。


水に濡れ、電源が入らない事に気付くとイノリは力一杯機器を地面に叩き付けた。




イノリはそのままキヨを置いて歩き出す。




キヨがついてくる気配がない事に気付いたイノリが後ろを振り向くと


いつも大声で泣くはずのキヨが、麦わら帽子で口元を隠しながら静かに泣いていた。



初めて見る泣き方。



イノリは困ったように微笑んで息を吐くと、麦わら帽子で顔を隠すキヨに歩み寄り、おでこに優しくキスをした。



大好きなイノリに大嫌いだと言われた事が悲しくて。

イノリのゲーム機を感情任せに壊した自分が情けなくて。




声も出ない程に泣いていたキヨは、イノリのキスで泣き止んだ。



「…泣くな。怒ってねぇから」

「でもっ…嫌いって言った」

「嘘に決まってんだろ。キヨを嫌いになんかなるかよ」



キヨはジッとイノリを見つめると、さっき女の子にキスをされた方のイノリの頬をゴシゴシと手で拭うと、イノリの頬にキスをした。



夏風が小さな2人を包み込む。




あれから十数年経った今も、同じ場所で同じように喧嘩をする事が暫しあるイノリとキヨ。


喧嘩をすると、あの頃のように麦わら帽子で顔を隠しながら泣くキヨ。




そんなキヨを泣き止ます方法を知っているのはこの世界でイノリだけ。



今日もあの頃と変わらない風に包まれて、イノリはキヨの額にキスをした。




あの頃と違うのは

キヨの額にキスをする時、イノリが少し屈まないといけないこと。