穏やかに過ぎていく時間。

そんなある日、キヨはイノリと共にカゼのお墓参りに来ていた。




「墓が地元だからたまにしか来てやれなくてごめんな」

「お詫びに美味しい物いっぱい持ってきたからね、カゼ」



イノリとキヨはお墓の周りを掃除すると墓の前にかがみ、手を合わせ目を瞑った。


心地よい風が吹き渡る。





「カゼ、カンナは無事にカゼとの子を生んだよ。…ってもうカンナが報告に来たよね。フウを連れて」



イノリとキヨがカゼの名が刻まれた墓を見つめていると、2人の横に1人の女性がやってきた。




「風のお友達ですか?」


その女性は美咲だった。




「あなたはカゼのお義姉さんの…」



イノリとキヨは立ち上がると美咲に頭を下げた。


3人は並んで墓を見つめた。




「海と風はあんなに距離を作っていたのに、死んでしまってからこうして同じお墓で眠っているなんて…何だか不思議」


「お義姉さんはどうして2人があんなにも嫌い合っていたかご存知なんですか?」



キヨの言葉に美咲は頷く。




「風は沢山の人から好かれていて、毎日幸せそうだった。だから海は、自分だけは風を一生嫌い続けるって言ってたの。海が風を嫌う事で風が強くなると思ってたんだと思う。…海は心から風を嫌っていたわけじゃない」



美咲の言葉を聞いたキヨは涙を流す。



「何で…それを知るのが今なの?カゼに聞かせてあげたかったよぉ……」



長年、兄との関係で苦しんできたカゼ。

本当の想いを知る事なく、この世を去ったカゼ。




美咲の言葉は
兄の本当の気持ちは

カゼには届かなかった。