その日の夜。


長年の想いが重なったキヨとイノリが抱きしめ合って眠っていると、突然キヨが震えだした。




「…キヨ?泣いてんのか?」



キヨの異変に気付いたイノリが目を覚ますと、ベッドに座っているキヨが視点の合わない目から涙を流して震えていた。




「カゼっ…!カゼがぁぁぁぁ!!」

「落ち着け。大丈夫だから」



痙攣を起こしたかのように震えるキヨをイノリは強く抱きしめた。




「もうカゼはいない。辛いけどそれが現実だ」


「やだやだやだぁぁ!!カゼがいないなんて嫌だっ!!」


「…でもな、カゼはお前が大好きだからいつもそばにいてくれるよ」



イノリはキヨの肩に額をつけると更に強く抱きしめた。





「…キヨ。お前だけは何処にも行かないで」



肩がじんわりと濡れてきた事に気付くとキヨは泣くのをやめた。





悲しいのは私だけじゃない。

カンナもケンもイノリもみんな同じだけ悲しいんだ。


5人は5人で同じだけの時間を過ごしてきたんだから、カゼがいない悲しみも同じ。




それなのに私が泣いたら、みんなもこの悲しみを思い出してしまう。



泣いてちゃダメだ。



キヨは押し殺しきれない声をもらし嗚咽するイノリを力いっぱい抱きしめた。




「行かない…。イノリがいない所になんか行かないっ」



イノリを置いて何処かに行くワケない。


…行けないよ。



だってイノリのいない世界に私の居場所なんてないのだから。





その気持ちを教えてくれたのは…カゼ。





“イノリの事が好きなキヨが好きだよ”



うん。

私はずっとずっとイノリを好きでいるよ。



生まれてから今日まで、ずっとイノリが好きなんだもの。

きっと死ぬまでイノリを好きでいるよ。





だから私がいつか死んでまたカゼに会った時も


私を好きだと言ってね。






その時まで、おやすみなさい。