それは、ほんの数時間前のこと。


「カゼ遅いね」



カゼの電話から数時間が経とうとしても
一向にカゼは帰って来なかった。




「カンナ電話してみたら?」

「別にいいわよ。カゼはマイペースだから寄り道してるだけよ、きっと」

「寄り道にしては遅くない?私、電話してみるよ」



リビングでカゼの帰りを待つキヨとカンナとケン。

キヨは携帯を手に取ると、カゼに電話を掛け始めた。



しかし聞こえてくるのは呼び出し音だけ。




「あれ、留守電になっちゃった。…カゼ、カンナ待ってるよ?早く帰っておいで。どこか寄ってるのなら一応カンナに電話してあげてね」



キヨは留守電にメッセージを入れると通話を切った。


すると、すぐに電話が掛かってきた。




「カゼから電話掛かってきた。私じゃなくてカンナに電話してって言ったのに。…カンナ出る?」



キヨが携帯をカンナに向けると、カンナの隣りに座っているケンがニヤリと笑った。




「カゼ、キヨにカンナの薬指のサイズでも聞きたいんじゃない?だからキヨ出なよ」

「ちょっとやめてよ!!ケンのバカ!!」


真っ赤になってケンを叩くカンナをからかうケン。


そんな2人を見ながらキヨは電話に出た。




「もしもし、カゼ?どこ寄り道してるのよ。カンナ待っ……」



いきなり黙り込むキヨに気付いたケンとカンナは、キヨを見つめた。




「…キヨ?どうした?カゼ、何だって?」


ケンが話し掛けても、キヨは声を発しない。



「キヨ?」


ケンがキヨの肩を掴むとキヨは耳から携帯を離し、ケンの顔を見た。




「…カゼじゃない人が…喋ってる…」

「え?カゼじゃないの?」

「うん。…知らない人が…変な事言ってる。この人、頭おかしいんじゃないかな…」



どうも様子がおかしいキヨから携帯を受け取ると、ケンは通話に出た。





「キヨ?誰が何て話してたの?」


「…嘘つきな人が嘘ついた」


「嘘つき?…誰が何を話していたの?」


「警察の人が…ね、カゼがっ……死んだって……言ったの!!!!」



キヨの言葉を聞いたカンナは目を開くと、ケンに視線を移した。


通話を終えたらしいケンは携帯を握り締めている手を下に下ろすと、色を失った目で何処かを見つめていた。




「…ケン…。カゼがどうしたの?…カゼに…何があったの…?」



口を開こうとするケンから携帯を奪うと、キヨは誰かに電話を掛け始めた。


数回のコールの後、通話が繋がる音がした。




「キヨ?久しぶりだな。どうした?」

「イノリっ…!!!!イノリ!!」


キヨが無意識に電話を掛けたのはイノリ。




「…泣いてんのか?どうした?」

「カゼがっ…!!カゼがぁぁぁ!!!!」

「カゼが何だよ。カゼと何かあったのか?」

「カゼが…死んじゃっ…た……」

「…は?」



泣き崩れるキヨの言葉が何なのか信じられないイノリ。

キヨは涙声を必死に抑えながら言葉を続ける。




「今ね…警察からカゼの携帯で電話掛かってきたの。…交通事故で……死んだって。…大きな外傷はないけど…頭を強く打ったみたいで……即死だったって…」


「死んだ死んだ言うな!!お前、まだ何も見てないんだろ!?だったら少しでも可能性を信じろよ!!!!…そんなんじゃ起こる奇跡だって起こらねぇぞ!?」


イノリに怒鳴られたキヨはハッと我に返ると、涙を拭った。



「…ごめっ…。ごめんなさい。イノリの言うとおりだよね」


「いや…。怒鳴って悪かった。
俺も今から急いで病院に向かうから、カゼが搬送された病院教えてくれ」




キヨはイノリにカゼが搬送された病院名を告げると、タクシーを呼び、ケンとカンナと共に病院に向かった。




そして、今に至る。