その日家に帰ったキヨは母にカゼとの事を話す為、電話した。




「もしもし、お母さん?久しぶり。…あのね、私……カゼと結婚するよ」


「え?風くん!?あんた、祈くんと付き合ってるんじゃなかったの?」


「イノリとは付き合った事なんかないよ。ずっと私の片思いだったんだ。…それにね私、カゼとの子どもを妊娠したの」




キヨの言葉に母は固まる。





「…血は争えないわね。華月と美月は私に似たのね」


「お母さんに?」


「そうよ。私は華月を妊娠したからお父さんと結婚したの。今はお父さんを愛しているわ。でも妊娠した当時はそんな感情なかった。…美月も本当は風くんに、そんな感情ないんじゃないの?」




母の言葉を聞いたキヨは言葉を詰まらせた。


今も昔も、キヨが愛する男性は1人だけだったから。





「っ…お母さん!私…私ね、イノリが好きだよ。物心ついた頃からイノリだけが大好きなの!!イノリだけなのっ…。カゼも好きだよ?でもイノリとは違うの…」




電話口で泣き出すキヨに気付いた母は、少しため息を吐くと優しい声で話し始めた。





「美月、その気持ちを押し殺してまで授かった命を産みたいなら…風くんを愛せると思えるのなら、風くんとよく相談して産みなさい。

でもね、何よりも祈くんを大切に思うのなら、残酷だけど堕ろすのよ。産んでから後悔する方が子どもにとって酷なんだから」


「…お母さんっ!!」


「美月が祈くんを好きな事くらい、お母さんだって知ってるわ。昔から祈くんの名前ばかり呼んでいたものね。だからあなたが苦しんでいるのもよくわかる。
…でもそれからどうするかを自分で考えるのが大人よ。華月のようにね」




キヨは暫く母と電話で話した後、通話を切った。




まだ20歳のキヨ。

年齢的には大人と区別されるが、大きくなったのは体だけで心はまだまだ子供のまま。



でも、母親になった以上泣き言ばかり言ってはいられない。



キヨは混乱する頭を冷やそうと、外へと出掛けた。