煙草の味
嗅ぎなれた匂い
体に馴染んでいる体温



愛しくて悲しいその全ては、こんなに近くあるのに手に入れてはいけない。




「…これで最後。イノリとはもう、おしまい」

「何でだよ!」



キヨはイノリを睨みつける。

本当の感情がバレてしまわないように、鋭く。





「私は…イノリを許せないんだと思う。裏切ったイノリなんかいらない。
もうイノリは、好きだった人なんだよ」




どうして今なの?


真実が解き明かされるのも
答えを出さなきゃならないのも


どうしてその現実を突き付けられるのが今なの?





子どもでも
大人でもない今


何が一番幸せなのかなんてわからないよ…。





ただ分かるのは

目の前にいる愛しい存在を受け入れる資格なんて、今の私にはないということ。





「イノリ?過去を許せて今を懐かしく思えたらまた会おう?
“ただの”幼なじみとして。
もっと全てを許せる大人になるまで私は、イノリといる資格も自信もない」



キヨが無理矢理笑顔を作るとイノリは泣きそうな顔で頷き、キヨの前から消えた。





恐いもの知らずの子どものままだったら

全てを受け止められる心の広い大人になれていたなら


こんな結末を迎えずに済んだのかな?



私達は今、本音をぶつけ合うには子供でも大人でもない中途半端な位置にいる。

だから向き合えない。





イノリへの想いは過去形ではない。

現在進行形であり未来永劫変わりはしない。




ただ好きという気持ちだけを素直に感じ、一緒にいられたのならどんなに幸せだったのだろう。





キヨとイノリの間に距離なんかなかった。


だけど2人の間にはいつも何かがあって、想いが繋がる事はなかったのだ。