祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

アパートに着いたカゼがドアを何度も叩くと、眠たそうに目を擦りながらイノリが出て来た。




「何だ、カゼかよ。お前、今何時だと思ってんだ」

「………キヨが妊娠した」



カゼの言葉にイノリは目を完全に開くと、カゼの胸倉を掴んだ。





「お前っ…!本当にキヨとヤったのかよ!?」


「………うん。キヨはイノリへの想いを裏切れない、裏切りたくないって泣いてた。でもその姿を見たら愛してあげたくなって抱いた」


「――っ!俺のせいだって言いたいのか!?俺がお前にキヨを抱かせたとでも言いてぇのかよ!?」




イノリが怒鳴ると、カゼは首を振った。





「………イノリがキヨのお姉さんを大切にしていたワケがわかった。それを伝えたかったんだよ」




カゼの瞳は儚く揺れていた。


イノリはカゼの胸倉から手を離すと、顔をしかめた。





「………キヨの妊娠はまだ確定してないけど、もし本当に妊娠をしていて、キヨが生みたいって言うのなら…俺はキヨと結婚するよ」


「は!?結婚?だってキヨはケンと……それにカンナはどうすんだよ!」


「………キヨと子どもを守ってやれるのは俺だけだ」




カゼがそう言うと、イノリは力無くその場に座り込んだ。




今までは自分がキヨに向けて言ってきたようなセリフを、今はカゼが呟いている。

その事実が悲しかった。




そしてカゼとキヨが結ばれるという事は、カゼを好きなカンナとキヨを好きなケンを裏切る事になり、5人の関係が完全に終わるということ。


イノリはそれを感じた。