祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】

「………顔色が良くない。吐いたからかな?」


「…カゼ。もしもだけど、もし私がカゼとの子どもを妊娠したって言ったら……どうする?」




キヨの言葉を聞いたカゼは一瞬固まると、キヨの肩を掴み自分と視線を合わさせた。




「………“もしも”じゃないんだろ、キヨ」



カゼがキヨを見るとキヨは俯いた。





「………キヨはどうしたい?生みたい?堕ろしたい?」

「わかんないよっ…!どうすればいいのか…わかんないっ!!」




カゼは興奮するキヨを落ち着かせる為に抱きしめると、背中を撫でた。


キヨの小さな体は震えている。




「………キヨ。俺は何でもするよ。だからキヨの好きなようにすればいい」


「…カゼっ」


「………大丈夫。大丈夫だから」




キヨはカゼの優しい声を聞いて、昔の出来事を思い出した。




それはまだ5人が高校生の頃。

進路について悩んでいたキヨ。



誰とも離れたくなくて、でもみんなは自分達の道を歩こうとしているから引き留められなくて、途方に暮れていた時。


カゼの言葉がキヨを救った。




「………俺、東京の大学受ける。キヨも一緒においで。大丈夫、ずっと一緒にいるよ」




カゼの優しい声は、欲しい言葉を的確に紡いでくれてきた。



そして今も…。





「………もし生みたいなら結婚しよう。俺がキヨと子どもを守るよ」




カゼは柔らかく微笑んだ。