気付くとキヨは涙を流していた。

ケンは優しくその涙を拭う。




「…ありがとう、ケン。凄く嬉しいよ。…でも私ね、地元に帰る事にしたの。だからケンの気持ちには答えられない」


「え?…だって大学は!?」


「地元に帰る前に退学届けを提出するよ。ここには私の居場所なんてない。いる意味もない」




キヨは立ち上がると、荷造りをし始めた。


ケンは荷造りをするキヨを後ろから抱きしめた。





「…この家にいたくないなら、俺と違う所に住もう。だから地元に戻るとか言うなよ」


「ありがとう。その言葉だけで私は幸せだよ」


「地元になんか帰さない!キヨを1人になんかにさせないっ…!!俺が幸せにしてやるから何も心配するな。余計な事は考えるな」




ケンはキツくキヨを抱きしめる。


遠くに行こうとするキヨを引き止める為にキツく強く、でも優しく…。




「…っケン…そんな優しくされたら私は甘えてしまう。…ケンの優しさにつけ込んで…ケンの事も平気で傷付けちゃうよ?」


「それでいいんだよ。キヨはなにも気にせず甘えてればいい。その方が俺も嬉しい」




キヨはケンに体を向けると、夢のように優しいケンの胸に抱きついた。


ケンを傷付けるだけだとわかっているのに、寂しさが優しさを求めてしまう。




「住む所は俺が探しておくから、キヨは何も心配しないで?大丈夫だからね」



キヨが頷くと、ケンは優しくキヨの背中を撫でた。







築きあげた繋がりが崩壊した時、新しい繋がりが生まれる。


それでも人は優しさに縋り、誰かを傷付けながら生きていく。




それしか
生きる術がわからなかった。