部屋を出る前に、私は和泉川先輩の方を振り返った。


「和泉川先輩、覚悟しておいてください。その捻くれた根性を必ず叩き直して差し上げますから」


静かにそう告げて、和泉川先輩の家をあとにする。
後ろから和泉川先輩の声がかかることはなかった。
暗い夜道を歩きながら手の甲で鼻の下をこすったら、固まりかけていた血が付着して、なんだか凄いことをしてしまったなと、少しだけ不安に駆られる。

こんなに激しい取っ組み合いを異性としたのなんて言わずとも初めての経験だ。
体中の血液が沸騰しているかのように熱い。


「おねえおかえりー……って、その顔どうしたの!?」
「狼男と戦ってきたの」
「は?おおかみおとこ?でも今日満月じゃないよ!?」


興奮が落ち着いてきた頃帰宅した私を驚愕の目で見た愛加の突っ込みは、的確であるような、どこかズレているような、点数をつけるなら60点くらいが無難なものだった。