「忘れてしまったなんて酷いな。中学の時ゼミで一緒になったことがあるじゃないか」
「確かにゼミには参加してたけどよ」
「席が前後だったこともあるだろう。消しゴムを貸してあげたこともあったかな」
「覚えてないな」
「君がゼミの自販機でアタリを出した時、一本僕に譲ってくれたこともあったよね」
「あったようななかったような」
「はは、賢いわりに記憶力が残念のようだね」


若干呆れ顔でいた舞鶴さんだけど、「まぁいいや」と中指で眼鏡を直しながら表情を改めた。


「それじゃ、フェアプレーで宜しく頼むよ」


そう言い残して元いた位置に戻っていく舞鶴さん。
その後ろ姿を見たまま、和泉川先輩は訝しげな面持ちで「誰だっけ」と呟いていた。

舞鶴さんの証言は真実か否か、和泉川先輩の記憶が曖昧なだけか。
多分後者なのだろうけど、舞鶴さんもあまり気に掛けていない様子だったし、今の件はこれで終了したと思い込んでいた……のだけれど。