間髪を入れずに私はそう言っていた。

「何で? 小枝子だって腹減ったろ?」

「頭が痛いんです」

「薬を飲めばいいじゃないか?」

「薬じゃ治りません。家に帰って寝たいんです。帰らせてください!」

つい怒鳴ってしまった。
頭が痛いというのは嘘で、とにかく、一刻も早く一人になりたかった。

「分かったよ。黒崎さん、帰ろう?」

「かしこまりました」

アパートに着くまで、私は無言のまま目をつぶり、ずっと堪えていた。涙が溢れ出すのを。


ようやくアパートに着いた。

「小枝子、今日は仕事を休んでもらったのに、悪かったな?」

「………」

「家で待ってるから、頭痛が治ったら来いよ」

「………」

「な?」

「……はい」

「あ、それとも俺が…」

バタン

亮介さんはまだ何か言っていたけど、私はアパートの玄関に入り、ドアを閉めてしまった。