「僕はそろそろ帰るよ」

彼は変わった。それは僕にとっても、うれしいことだ。

「もう帰るのかい?」

「ああ。街のみんながこの国は変わったと喜んでいるのを伝えにきただけさ。お前のおかげだよ、クロード」

ぱちん、とフィンガースナップをする。淡い光に包まれ、彼は黒猫に姿を変えた。その姿に、クロードは苦しそうに顔を歪める。

「……僕はまだ未熟者だ。二年経っても、お前が人の姿で過ごすことの出来る環境をつくってやれないのだから」

「自分を責めるな、クロード」

お前が僕のことを気にかけてくれることだけで、僕は満足だ。

「僕はきっと、これからもずっと人々を恐れるだろう」

できるのならば、元の姿で過ごしたい。自由に街を行き来したい。
けれど、人の姿に戻ってしまえば、人々の前に出てしまえば、僕はまた昔のように過ちを犯してしまう。

かつての過ちを二度と繰り返さないために、僕は魔法使(僕自身)いを嫌った。そして人々に少しもの期待をさせないために、不幸を呼ぶ黒猫の姿となり、人々の前から姿を消した。

「〝魔法使い〟なんて、存在するべき者じゃないのさ」

人々に幸せを与えるはずの存在なのに、いつしか人々の心を歪ませる存在へと変わってしまたのだから。

「ウィズ……」

「そんな顔をするなよ、クロード。別に僕は辛くないんだ。それにお前のおかげで、僕もずっと暮らしやすくなった」

二人といるとき、そしてひとりの時だけ、人の姿に戻る。それ以外では災いの元だと厭われし姿になる。
もう、慣れたことだ。

「ああ、さっきまで晴れていたのに、曇ってきてしまった」

青空が分厚い灰色の雲に覆われていく。少し先の方では雨も降り始めている様子だ。

「雨に濡れるのは嫌だから、もう行くよ」

軽々と木の枝に飛び乗り、塀へと移る。

「またね」

そして静かに、黒猫は姿を消した。

「……僕はウィズを救うことだできないのか」

悔しそうな声に、シンデレラはただクロードの手を握ることしかできなかった。