アパートから歩いて数分の、駅前にある小さな喫茶店。そこが私の勤め先だ。

裏口から中に入ると、コーヒーのいい香が漂っていた。

「おはようございます」

「あ、小枝ちゃん、おはよう」

マスターが優しい笑顔で挨拶を返してくれた。

マスターは、年齢は40歳くらいで、何年か前に奥さんを病気で失くし、今は美緒ちゃんという小学生の娘さんと二人暮らしをしている。

美緒ちゃんは目がクリッとした可愛い女の子で、学校の後によくお店に来ては、特に私とおしゃべりをしたがる子だった。

店内にお客様は一人もいなかったが、それは午前中では珍しい事ではない。

お昼頃からお客様が増えていき、学校帰りの高校生や大学生が来る夕方がピークになる。

そのため、午後からは健ちゃんというアルバイトの男の子が応援にやって来る。