「れいく~~ん、こっちきてぇ」

踊り場から出てきた女生徒に
気づくのが一瞬遅れた。

勢いよく女生徒とぶつかる。
咄嗟に手すりを掴もうと
思った手は空中をかいた。

グラリと体が傾く。

思わず目を閉じた棗の身体を
ふわりと温かいものが
包み込んだ。

「大丈夫??」

目をあけると顔のすぐ間近に
見知らぬ男の顔があった。

「君みたいなかわいい子が
落ちてケガでもしたら大変だ」

モデルのように整った顔の
男がにっこり微笑む。


だが棗は気持ち悪さに
顔をゆがめた。
ゾクリと肌が粟立つ。


男の感情の色が
流れ込んでくる。

その笑顔には似合わない
黒い、深い深い、闇の色……。

目の前で固まる棗に男は
不思議そうに首を傾げる。

「どうかした?もしかして
俺に見惚れてるの??」

男が覗き込むように
顔を近づけてくると
女生徒のイヤ~という声が
廊下に響いた。

思わず棗の右手は
男の頬を打っていた。