「いったい、どれが本当なの?」

と訊ねていた。

「キスが薬で、君はその薬がないと動けない。僕の唇を奪いたい。男を手玉に取って高笑いする悪女になりたい。いったい、どれが本当なのかな?」

夕暮れが濃くなり、黒とオレンジの差がはっきりしていく。僕より窓側に立つ彼女は、真っ黒にほど近いシルエットで、くすりと笑った。両肩をきゅっと寄せあげる笑い方だった。

「全部、って言ったら?」

「……君がそう言うなら、別に」

「そう、じゃあ、全部、違う」

そしてシルエットは、片手をあげた。彼女の細かな表情は、見えにくい。だけど、

「――キス、したらわかるかもよ?」

あの白い人差し指が、その唇を差しているのは、わかった。

僕はもう一度せせら笑う。

「それだけはないよ。絶対に」

そうして、ドアを開けて外へ出た。

廊下にひそんでいるはずの彼女の仲間は、おかしなことに、ひとりも見当たらなかった。