しかし手をすべらせ落としてしまったのだろう。

リカちゃんは淑恵に対して『お皿が勝手に飛んだの…』と泣きながら言った。

「あたしは理花がやろうとしたことが分かってたので、叱ったりはしませんでした」

淑恵はリカちゃんにケガがないことを確認すると『怖くなかった?』と言って抱きしめた。

「今の話を聞いて確信が持てました」

達郎は一度、大きくうなずいた。

「理花ちゃんにとって淑恵さんはたったひとりの肉親。しかし淑恵さんには仕事もある。自然とすれちがいの時間が多くなってたはずです」

淑恵はうなずいた。

「そんな時、お皿を割ってしまった。しかも勝手に落ちたなどとウソもついてしまった」

しかし、母親は怒らなかった。

しかも自分の話を信じ、怖くなかったかと言って抱きしめてくれた。

さびしい思いをしていた子供にとって、それがどんなにうれしいことか。

あたしにも想像がつく。