ユーゼロードは、自分がいつどこで、どうやって生まれたのか知らなかった。
人のように親がいたのか、いないのかそれすらも記憶にない。
物心ついた時には既に独りきりでこの世をさ迷っていた。
ただ、自分の名や、どうやって生きていけばいいのかということは本能的に知っていた。
数多いる人々とは、相いれぬ生き物だということも。
時には人に混じって暮らしたこともあった。
だが、青い髪に石を投げ付ける輩が多かったので、長くは続けなかった。
傷は消えても、虚しさはいつまでも残る。
そう、気付いたからだ。
たまたま上手くいき、長く一カ所に留まったこともあった。
しかし、結局、ユーゼロードは時に置いていかれ、最後には独り残ってしまう。
長く、孤独な日々。
自分と同じような生き物はこの世界のどこにもいないのだろうと、そう思っていた。
そんな時に、あの男と出会ったのだ。
夜の闇を裂いて、異質な赤が揺らめいている。
街が、焼けているのだ。
逃げ惑う人々とユーゼロードはすれ違う。
消そうにも、一度燃え上がった炎の勢いは誰にも止めることが出来なかった。
熱を放って踊り狂う炎をユーゼロードはぼんやりと見つめる。
と、街を取り囲む高い石壁の上で何かが動いた。
よく目を凝らすと、それは人影で、石壁に座ったまま火事を見ているようだった。人影には逃げるそぶりがない。
不思議に思ったユーゼロードがその人影に近付くと、相手もこちらに気付いた。
興味深そうに火事を見て笑っていた横顔がユーゼロードへ視線を落とした。
黒い髪の青年だ。
鈍く光を放つ銀の瞳と目が合う。
それだけで理解した。
この男は、自分と同じなのだと。
相手もそれに気付いたのか、火事からユーゼロードへ体の向きを変えた。
「ほう。こんなところにお前のような者がいるとは」
「お前は…」
「何者だと問うのなら止めておけよ。答えなど、どこにもない」
男はそう言うと、上からひらりと降りてくる。
「だが、あえて言うのならば、私は人を屠る者…なのだろうな」
そして、闇に似た笑みを浮かべた。