ハーゼオンは小さな子供のように頼りない顔をしている。
印象が安定しない。
芯がないような、そんなふらふらとした危なっかしさを感じた。
「君は無理矢理花嫁にされてしまったのかもしれないけど、俺は、花嫁を裸のまま鎖に繋いで足元へ侍らせておくような奴らを知ってる。
それに比べれば青珀はいい奴だし、この国は幸せな国だ。
だから、君が悲観して日々を過ごしてないといいなぁ、なんて。
頭を殴られたら、急にそんなことが心配になったんだ」
吸血鬼に言われても説得力がないか、と付け足して、ハーゼオンはぺろりと舌を出す。
「私、悲観はしていないわ」
何を答えていいのか分からず、思い浮かんだ言葉を素直に告げた。
私は別に、花嫁になったことを悲観するほど不幸ではない。許せるかどうかは別として。
ルーや家妖精との暮らしにも慣れてきていたし、衣食住のどれも不満はない。むしろ、以前よりも恵まれているぐらいだった。
私の答えを聞いたハーゼオンは、安心したような表情を浮かべると、勢いをつけて立ち上がる。
冷たい手は、変わらず冷たいまま離れていった。
「さて、頼まれた二人が目覚めたら、俺は帰りますか」
「明日か明後日には目覚めると思う。泊まってくだろ」
「長居は出来ないけどね。けど、他領域の話も伝えておかなきゃいけないし」
今まで黙っていたルーが、ハーゼオンの傍に来ると服についた埃を払う。
なんのかんの言ってルーは世話焼きな性分なんだろう。
「仲がいいわね」
私が言うと、ハーゼオンは得意げにルーの肩に腕を回した。
そして、私へ満面の笑みを向ける。
「実は俺たち同郷なんだ」
ルーは私が予想した通り、その腕を嫌そうに外した。