すっかり元気を取り戻した璃花 私は、桃谷家を後にする。

 友達と旅行なんて一年前の修学旅行以来ね。

 桜華学院は、一応進学名門校。

 だから、受験に差し支えないようにって2年の終わりに行ってしまったの。

 私もまた心を弾ませながら駅まで歩く。



 いつも降りる駅の一つ前で降りる事に。

 なんとなく、あの木を観たくなって。

 小さい頃よく遊んだ 
 私の心を穏やかにしてくれる
 
 『梅の木』

 濃い目の桃色に丸みを帯びた小さな花が、このスミレ色の空の下でよく映える。

 今日は、元気がないとかではない。むしろ、普段以上に元気いっぱい。

 だって、璃花と今の今迄一緒にいたんだよ♪

 なのに、このポッカリ穴の開いたような気持ちは……何?

 梅の木にそっと手をかざす。

 東の空から薄っすら月が見える。

 早く帰らないと、彩希(アキ)心配するよね?

 心では解ってるのに身体が…動かない。

 空は段々暗くなるのに、私の周りだけ、光りに包まれたような明るさに。

 ……何? 自分の身に今何が起きているのか把握出来ない。

 その時、微かに聞こえる人の声。

 「力を貸してください」

 「誰?」

 辺りを見舞わすが、誰もいない。

 「私の声が聴こえるのですね?」

 目の前の木だけが光ってる。

 「まさか……ね」

 私は、一人呟く。

 「そのまさかです」

 「本当に!? 梅の木がお話しされとるんですか?」

 目を擦り、もう一度目の前の紅梅の木に視線を移す。