「あ…と、もう、す…こし…っと」

30㎝ほど高さの踏み台に乗り
その上で更に爪先立ちで背伸びをして玄関棚の天板部分の埃を
《《はたき》》で取り除こうと手を伸ばす。

この家は広さだけじゃなくて
背の高い男2人が基準のせいか
配置されているものは基本的に高所が多くて
掃除を任せられている方としては大変。

「危ない…」

背後から
ふいに聞こえた囁くような声と感じる”誰か”の気配は
伸ばした私の手に重ねるようにして掃除を手伝ってくれる。

「え…」

「だから危ないって。
 前見て」

足元のバランスも悪く危険な状態なのに
つい反射的に振り返ろうとしてしまい
《《その》》人物に顔を向けようとしたけれど
また注意をされてしまった。

「氷彗…?」

顔は見れなかったけど
声で誰かわかった。


踏み台から降りて振り返った私に
彼は不安そうな表情で見つめがら言う。

「危なかったしいなぁ。
 困った事があったら俺を呼びなよ」

「あ、うん…
 ありがとう…」

あいかわらず近すぎだって。
逃げ場のない場所で
僅か数センチの距離感は今でも慣れない。

何より難解なのが
これが、わざとなのか無意識なのか
本当にわかりづらいって事。

「そうだ、詩菜。
 今週の日曜日
 ドライブも兼ねて俺とデートしよ?」

「で、デート!?」

顔近し距離感のまま
今度はストレートな誘い文句に
驚いて声が裏返ってしまった。