そしてそんな気持ちを微塵も感じないのは
相手がこの男だからか。

「あの、さ。
 私、ここに来てから本当に食事と掃除しかしてないんだけど…いいんです?」

「それが契約条件だからな。
 金なら払う。
 契約書にもそう書いてあっただろ」

食事を終えた壱琉は
食器をシンクに置いてから
換気扇の下で電子タバコを吸っている。

確かに彼の言うように
(何も考えずにサインした)あの書類には
しっかりと“毎月25日が給料日”と記されてはいた。
しかし、それだけでお金を頂くのもどうなのかと…。

「なんだよ、その条件じゃ不満なのかよ」

「ち、違います。
 むしろ申し訳ないなって…」

コイツの性格は好かんけど
元は私が泣きついた話だったわけで
同情でも置いて貰った事は有難いのが事実。

「そりゃぁな。
 『追い出されたぁ』とかで訴えられたら厄介だからな。グダグダ言っても面倒だし、手っ取り早く条件付きで釣ればノるだろ」

「私はその餌に
 まんまと引っ掛かったってワケですか…」

馬鹿正直に思っていること全部を口に出してくれたな。
適当に、人を魚みたいに言ってくれたけど
遠回しに“やんわり”オブラートに包んだ言い方 は出来んのかい。

「そうだ。
 今日は俺も氷彗も帰りが遅いから。
 何かあっても自分でなんとかしろ」

え、フラグ?