「と」


視線を外すとスピーカーのほうを見上げ、また私を見る。


なにか伝えようとしてるの?


【と】のつくものなんて、いくらでもあるんじゃ?


私が首を傾げていると、またスピーカーのほうを見た。


いや違う。


スピーカーじゃない。


壁の掛け時計を見てるんだ。


『とけい』を選ぶって私に言いたいんじゃないのか?


それはどうしてか?


次の言葉が【い】で始まることを私に伝えて、少しでも考える時間をくれようと…。


私は祐希に向かって頷いた。


するとすぐに「時計」と言って、壁の掛け時計を指差す。


『クリアです!』


最後は私だ。


祐希が考える時間をくれたことで、すぐに「椅子!」と答えることができた。


『クリアです!』


「よし」


思わず声が出る。


『全員クリアです!おめでとうございます!』


予定していた言葉ではなかったけど、無事に全員がクリアすることができたんだ。


「ありがとう」


私は祐希にお礼を言った。


「俺はなんもしてないよ」


ぶっきらぼうに言うけど、私にはちゃんと分かる。


そんなかつての幼なじみの気遣いが、とても嬉しかった。