が、思いもしないことが起きて視界が一転すし、鼓動が一気に高鳴った。

「あの!」

「その靴では歩き辛いだろう。それに膝を怪我しているじゃないか」

私の異変に気付いていたらしい結斗さんが、私を抱きかかえて歩き出したのだ。まさかのお姫さま抱っこに私の中に戸惑いと動揺が広がっていく。

「お、下ろしてください! 歩けます! 大丈夫ですから!」

慌ててそうお願いしてみても、結斗さんは歩みを止めてはくれない。

「……周りの人たちにかなり見られて、恥ずかしすぎます」

「ならば見せつけておけばいい。蜜葉はしっかり俺に掴まっていろ」

戸惑う私の耳に結斗さんの優しい声が届いた。

時折、結斗さんが見せる強引だけど温かい優しさが私の心を離れられなくするのだ。あなたとの未来がないというならば、こんな優しさを見せないでほしい。そうでなければ、私はきっと……溺れ掛けた甘い誘惑の世界から抜け出すことができないから。