「アネッロに行くの。マスターに新作の試食を頼まれてて、今日顔を出すって言ってあるから」

「そうなんだ? 蜜葉、アネッロのマスターには昔からお世話になってるもんね! あそこのオムナポリは絶品よね。私も行きたくなってきちゃった」

アネッロとは私が高校時代にバイトをしていたカフェだ。夫婦で経営している小さなお店だが、ふたりの人柄と絶品料理の数々に足繁く通うファンは多い。

私もそのひとりで、バイトを辞めてからもちょくちょくお店に通ってマスターの絶品料理に舌鼓を打っている。

茜もアネッロの大ファンだから、無性に行きたくなる気持ちは良く分かる。

「マスターの頼みなら仕方ないよね。いってらっしゃい」

茜はそう言って合コンの件をあっさり諦めてくれた。

それにほっとしつつも、嘘を吐いてしまったことにちょっぴり罪悪感がある。