図書室は静かに勉強している人ばかりで、居心地は悪くなかった。

貸し借りの手続きも、本についてあるバーコードを読み取るだけ。


しかし。


「大変だねぇ。お前なんでも言うこと聞いてくれそうだもんねぇ」


目の前にはなぜかクノさんがいる。

カウンターに肘をつき、バカにしたような目で私を見つめてくる。


「しょうがないじゃないですか。穂波さん、すごい困った様子だったので」


さっきクノさんは下駄箱近くにいたため、私と穂波さんたちとのやり取りを見ていたらしい。

何となく急にバイト入ったことにして、カラオケは断ったとのこと。


「名前。美しく透きとおる、で美透ね。で、アカウント名は"透明ガール"」

「はい……悪いですか?」


この前、クノさんに自分の正体を伝えた。

DMを送った恥ずかしさもあるし、アカウント名もバカにされた感じがして、むっとしてしまう。


「本当透明だね。薬にも毒にもならない感じ? そんなやつと一緒にいても面白くないじゃん」

「何が言いたいんですか?」

「だから上手く使われてるんじゃねーの?」


本を借りに来た生徒が来たため、クノさんを無視して立ち上がった。

バーコードの処理を終えてから、言い返してやった。


「クノさんにも上手く使われましたからね」


嫌味を言ったつもりなのに、彼は「おっ、言うじゃん」と嬉しそうな顔になる。