「ねえ! 和馬! 何もいないよ! もしかして幽霊か何か!? 和馬には何か触らない?」

 私は怖くなってシャーペンを握る和馬の手をブンブンと振った。

「……お前、本当にバカなの?」

 和馬が睨んでいた。

「え? なんで?」
「今、俺と美波しかいないわけ」
「そう、だけど?」
「なら、俺がしてるに決まってるだろ?」

 私はパニックになる。

「なんで?」
「お前、何でお前のばーちゃん家に俺がわざわざ来てるか考えたことある?」
「こたつが温いから」
「……」

 足に衝撃。

「痛いっ!」
「お前、それわざとなの?」
「何が?」
「なんでそんなに鈍いんだよ?」
「え?」

 またふくらはぎに感触。そしてそれが段々と上に……!

「ちょっとっ!!」

 私は和馬の足を手で掴んだ。

「何してんの?!」
「美波こそ何してんの? 俺男だけど、その男に足を足で触らせ放題」
「変な言い方しないでよ!」
「ばーちゃんはこの時間ご飯作っててここに来ないし。俺たち二人きり。もっと色々しようと思えばできるんだぜ?」

 和馬が急に怖くなった。

「なんで、急に、そんなこと……」
「美波が全然気付かないからだろ?」
「足に?」

 私の言葉に和馬は私の両脚を引っ張った! 私は掘り炬燵の底に尻餅をつく。

「痛いよ!」

 抗議の声をあげて前を見ると和馬の顔が近くにあって、私の心臓がドクンと跳ねた。
 私たちは掘り炬燵の中でしばし見つめ合う。炬燵の電気で和馬の顔がオレンジ色に見えた。

「お前、俺は男なんだよ? だからもっと危機感持ってくれる? 俺だからいいけど、他の男と炬燵なんか入るなよ?」

 私は目を白黒させる。えっと。それは……。

「いい加減分かれ。俺はお前が好きだから毎年ここに来るんだよ!」
「そ、そうなの?」
「お前、まだそんなこと言うなら、このまま押し倒すぞ?」
「?!」

 私はあまりに驚いて立ち上がろうとして、炬燵のテーブルの裏に頭をぶつけた。

「だ、大丈夫かよ?!」
「う、うん……ごめん。
ねえ、息苦しいし、ここからでない?」

 涙目で訴える。

「俺、まだ返事もらってないけど?」

 私は決まりきってる返事をした。
 私だって誰とでも炬燵に入るわけではない。
 私の返事に嬉しそうに笑った和馬。その頬はオレンジ色よりさらに紅くなっていた。


                              了