そんな浮かれた気分で駅まで向かってた私。


それはもう夢心地で、危うく現実というものを忘れてしまいそうになってた。



相手が“遊び人”の西野遥日だってこと。




──────それは、

駅で別れる直前のこと。





「にしても、なんで急にリップなんか買おうって気になったわけ?」



何気なく西野が聞いてきて、返答に困った私。

可愛くなりたいから……っていう本当の理由を言うのが恥ずかしくて、つい




「えっと……。陸人をびっくりさせてみたくて」



幼なじみの名前を拝借してしまった。



すると、何がいけなかったのか、それまでニコニコしてた西野が急に冷たくなって。



私は慌てて他の話題を探したけど、その直後、西野のスマホが音を鳴らした。



女の子から。

セリフは聞き取れなかったけど、たぶんお誘いの電話。



相手に「わかった。今から行く」と告げた西野は、私のほうをろくに見もせず背を向けて帰っていってしまった。



膨らんでた気持ちが、急にしぼんていく。



ちょっと期待してバカみたい。



その日は、電車を待つ時間が今までで1番長く感じられた。