「永遠に帰ってこないつもり? そんなの勝手すぎるよ。私の気持ちまで、勝手に羅良が決めないで」

 身代わりに花嫁にされ、自分を偽りながら暮らしているフラストレーションが、爆発しそうになる。

「自分が自由になるためなら、私を不自由にしてもいいわけ? 結婚が嫌なら、ちゃんと話し合ってよ」

 私は羅良が好きだったし、仲のいい姉妹だと思っていた。

 羅良は失踪しちゃうくらい実家が嫌だったのかもしれない。

 子供の頃から今まで自由にしていた私を、心の底では疎んじていたのかもしれない。

 それでも、私は、このまま羅良と生き別れになるなんて、どうしても嫌だ。

 それに、私はちゃんと、【星野希樹】として生きていきたい。誰も、騙すことなく。

『そんなわけない。落ち着いたら、いつか会いに行くよ』

 私の心を読んだように、羅良がなだめるような声で囁く。

「いつかって、いつよ。早く私を解放してよ」

『いい? 希樹。素直になるんだよ。私になりきるのはともかく、裕ちゃんとの結婚生活は、そんなに苦痛?』

 そんなことはないけど、と言いかけてやめた。羅良の思うつぼのような気がしたから。

『もう私は違う世界にいると思って。裕ちゃんのことが好きなら、そのまま本当の夫婦になればいい。私のせいで、色々と苦労があると思うけど』

「羅良……」

『本当よ。私はもう、裕ちゃんを男の人として見ていない。大事な幼なじみで友人だけど、彼が誰を抱いているところを想像しても、まったく嫉妬を覚えないの。だから……』

 羅良は一瞬、言葉を切った。そして、はっきりと私に言い聞かせる。

『あなたに裕ちゃんを任せる。裕ちゃんと結婚して、希樹』

 返事をする前に、通話は途切れた。

 私は呆然と立ち尽くす。

 スマホをあてていた耳が、熱を持っていた。