「そんなの、行かなくていいだろ」

「ダメだよ。みんなにお世話になったんだから。菓子折りでも持っていかないと」

「じゃあ、お母さんに適当に見繕ってもらおう。とにかくお前は職場に顔を出すな」

 頑なに私が職場に行こうとするのを制止しようとする父。

 焦ったような顔の上では、汗で髪が頭皮にへばりついている。

「そこまで行かせようとしないってことは、何かあるでしょ」

 父を壁際に追いつめて詰問する。にらまれた父はあっさり口を割った。

「……お前はうつ病を発症し、田舎で療養することになっている。退職ではなく、休職扱いだ」

「はー!?」

 この私がうつ病ですって。

 それって、真面目な人がなるやつでしょ。大雑把な私がなるわけないのに。

「仕方ないだろう。のこのこ挨拶に行って、休職の理由をどう説明する気だ。裕典君とのことは、社外に漏れてはいけないんだぞ」

 たしかに、うつで療養という理由だと、仲の良い同僚でも、なかなか簡単に会いに行けないだろう。他人には触れにくい理由だ。

「私だったら、そういう人はしばらく放っておいてあげたほうがいいと思うかも……」

「そうだろう、そうだろう。羅良が帰ってきたら、病気が治ったことにしてしれっと戻ればいいさ」