「楓」

名前を呼ばれて顔を上げると、クリフォード様の顔が下りてくる。

「楓、やっと見つけた私の番(つがい)」

番って何?そう考えていたら私の唇がクリフォード様の唇で塞がれた。

驚きで目を見開いたのは一瞬だった。
それよりも唇を通して何かが流れ込んでくる感覚がする。

あの心地よい香りと甘酸っぱいベリーのような味のオレンジ色をした気のようなものが渦になって唇から私の身体の中に流れ込んでくるような不思議な感覚がするのだ。

気持ちいい、思わず目を閉じそうになってハッとした。
思いっきり人前です、ここ。

かぁーっと熱くなる顔を背けてクリフォード様の腕から逃れようともがいてみるもののしっかり抱え込まれて動けない。

どうしてこの人は毎回いきなりーーーと睨みつけると、クリフォード様はそれはそれは嬉しそうなお顔をする。

その表情にこの人まさかドM?と不安になっていたら、ひょいっと彼の右肩の上に抱え上げられ乗せられてしまった。

いやっ、高い!怖い!
何で、肩の上っ。

慌てて彼の首にしがみついていると、
「皆の者、よく聞くがよい」と良く通る声でクリフォード様が周囲を見渡しながらはっきりと宣言した。

会場内が静寂に包まれ、視線が私たちに集中する。

「この者が私の番(つがい)の楓である。私は楓と言う番を得たことをここで皆の者に報告する」

え?なんの話?
また自分の知らないところで自分の話が進んでいる嫌な予感に動揺する私。

周りの人たちのどよめきがすぐに歓声に変わり大きな波のように室内に響き渡る。
ーーー大広間はすごい騒ぎになっていった。