夏目前だというのに、腕にいくつも刻まれた痣のせいで半袖は着られない。

いっそ半袖を着て父親の悪行をひけらかしてやろうかなんて考えるけれど、悪魔が被る仮面に騙された人間には嘘八百、痴情の縺れだと騒ぎ立てられるのが関の山だと安易に予想出来たから、止めた。

汗でぺっとりと張り付いたシャツの首元をパタパタと引いて風を送り込むけれど、入り込む風も絶妙に温くて更に気が滅入る。あぁもう、夏なんかなくなればいいのに。


「職員室に寄ってから来たんやけどさ、なんかすごい派手な髪のイケメンおったけん、びっくりした」


履きつぶしてぺったんこになった上履きで教室に入ると、クラスメートの女子が騒ぎ立てていた。その後ろを通り過ぎる時に、イヤホンの合間を縫って話している内容が入り込んでくる。


「あ、私も見た! 髪の毛、銀じゃなかったかや?」

「そうそう! こげな辺鄙なとこにおったらめちゃくちゃ目立つわ」

「なんでそぎゃん子がうちの学校におるかや」

「さぁ。卒業生とかやなか? あげな人見たことないけど」