1限目の授業が始まった。


机をくっつけたまま、隣の舞香に教科書を見せてやる。


ちょっと緊張しているのが、その横顔が強張っているように見えて、ひょっとしたらこの子、良い子かもしれないな。


なんて考えを、首を振って打ち消した。


とにかく、下手なことはしちゃいけない。


この山里高校1年3組には『絶対女王』がいるからだ。


城田安奈(しろたあんな)は、3組の女子を牛耳っていた。先生にもウケが良くて容姿端麗の安奈に逆らえば、ここでは生きてはいけない。


きっとこの舞香のことも、どうするか考えてるいるはずだ。


だから迂闊(うかつ)なことはできない。


それに、私は安定の地位にいる。


別にスクールカースト上位に登りつめたいとも思わないし、最下層に突き落とされる心配もない、座り心地のいい椅子に座っていた。


新山彩音(にいやまあやね)という親友もいるし、いじめとは無縁。


変に目立って安奈に目をつけられると厄介だ。


「可愛いペンだね」


舞香が話しかけてきたときも、私は短く頷くだけで言葉を返しはしなかった。


心細くて大変だろうけど、私は自分が大事だ。


ごめんね。


心の中で謝って、早く席替えが行われることを祈っていた。