蓮斗に『弁当作って』と言われて、断る口実にそう言ったことを思い出した。

「でも、起きなくちゃ。今日は火曜日だし」
「あーあ、会社サボりたい」
「社長のくせになに言ってるのよ」

 詩穂はそっけなく言った。蓮斗は体を起こして、詩穂の体に両腕を絡める。

「いいこと考えた」

 そう言ったかと思うと、ベッドから降りて詩穂を横抱きに抱き上げた。

「えっ、ちょっと、やだ」

 まだ部屋の中は暗いとはいえ、互いの体はぼんやりと白く見える。そんななか、なにも身につけていない状態で抱き上げられ、詩穂は恥ずかしくて真っ赤になった。

「今さらなに言ってんの」

 蓮斗の笑みを含んだ声が降ってきた。彼に抱かれたままバスルームに運ばれ、ひんやりとした床の上に降ろされる。明かりの下で彼に向き合い、目のやり場に困って、詩穂は体の前を隠しながら顔を背けた。

「詩穂」

 目の前に蓮斗の左手が伸びてきた。彼が壁にトンと手をつき、詩穂の顔を覗き込む。詩穂が頬を染めたまま睨むと、蓮斗が目元を緩めた。

「そんな目で睨まれても、逆にそそられるだけなんだけど」