詩穂はライチソーダのグラスに口をつけた。

「申し訳なく思う必要なんてないよ。向こうから連絡をくれたんだろ?」
「それはそうなんだけど……」
「一度、小牧から連絡してみろよ。案外あっさりしてるかもしれないぞ」
「そんなに簡単に言わないでよ」
「だけど、相手に確かめたわけじゃない。小牧が勝手に『顔向けできない』って思ってるだけだ」

 あのときの絶望的な気持ちを思い出し、詩穂はムッとして言い返す。

「挫折を知らない須藤くんにはわからないよ」
「俺が挫折を知らないって、どうしてそう思う?」

 真顔で問われて、詩穂はつかえながら答える。

「え、ど、どうしてって言われても……だって、須藤くんはいつだって自信満々で偉そうじゃない」
「俺が不安そうだったら、社員だって不安になるじゃないか」

 その言葉を訊いて、詩穂はハッとした。蓮斗は詩穂が思っている以上に他人を思いやれる男だった。

「表面からは見えないもの、わからないことはいっぱいあるはずだ……なんて偉そうに言っても、俺は例のインターンの本性を見抜けなかったんだけどな」

 蓮斗がため息交じりに言った。その表情が落ち込んでいるように見えて、インターンの事件が彼にとって挫折だったのだと気づいた。