なんでここに一ノ瀬くんが……。


待って。

そういえばさっき、春陽くん、なんて言っていたっけ。

最初に自己紹介をした時彼は、無邪気な笑顔でこう言わなかった?



『一ノ瀬春陽です』


そう言ったんじゃなかった?


「お、お母さん!」

「なあに、梓ちゃん」

「京子さんの苗字ってまさか……」

「あら? 言ってなかったかしら? 一ノ瀬さん。一ノ瀬京子さんよ」


涼しげな素敵な名前よねえ、なんてお母さんはのほほんと笑う。

ついでに「息子さんも涼しげなイケメンね」なんて言っているけれど、私は反応できず固まっていた。


「もしかして、これからうちで預かる子って、佐倉なのか……?」


珍しく動揺したように呟く一ノ瀬くんに何も返せない。


こんなことって……ある⁉


白いわんちゃんがキャンと吠えるのが、遠のく意識の中で聴こえた。