中島琉生(なかしま るき)くん。



この、不良校として名高い西高で
数少ない優等生のひとり──────だったはず。




成績は学年2位、制服をハデに着崩すことも、ピアスを開けることもなく
授業にはちゃんと出席して、いつもニコニコと柔らかい笑顔で誰にでも優しく対応する……






「あんたは何も見てない。そうだよな」


なんて、嘘だ。





「いや、えっと。私……」



なに、この威圧感。
なに、この口調。


知らない、知らない。



この人を怖いと思ったのは初めて。






「掃除時間はもう終わったし、放課後こんなところに来るヤツなんていねぇと思ったのにさ」




チッと鋭い舌打ちが落ちてくる。




そう、ただ中島くんがそこに立っているだけ、ならよかったんだ。


右手に、“ そんなモノ ” さえ持っていなければ。




とはいえ、この荒れた学校では、この行為自体はべつに珍しいものじゃない。



問題はこれを、“ 中島琉生が持っている ” というところにある。