「お待たせしましたー。彩雪さん入りまーす」

「彩雪、呼ばれたわよ」


黒いスーツに、ぴしりと引っ詰めた髪。そして縁無し眼鏡といういかにも「凄腕」という身なりの、私のマネージャー…岡崎はなさんに促され、私は深いため息を吐きつつ席を立った。


「はぁい。…宜しくお願いしまーす」

「彩雪さん、宜しくお願いしまーす!」



その掛け声に、危うくトリップしてしまいそうだった感情を仕舞い込んで、もう一度短く「はーい」と返事をしながら、羽織っていたショールを脱ぐ。



私、月村彩雪は読モから、最近本格的にプロに転身した、自分で言うのもなんだけど、赤文字系雑誌で人気急上昇中のモデル、だ。



最初この仕事に興味は、一切興味なんてなかった。

もっと言えば、こんな業界に入り込むだなんて、自分に全く自信のない私からは信じられないことだった。



だけど…。



『ねぇ?キミかわいいね。俺の手で魔法に掛けられてみない?』



そんな、軽いナンパな言葉にどうしてか惹かれてしまい…今、私はこうしてカメラの前に立っている。

そうだ…そんな今思えばなんであんなありきたりなナンパに引っ掛かってしまったんだろうか…?


考えれば考えるだけ頭が痛い。