乗るように促されても高級車に乗ったことがなくて作法が分からない。

 普通の車と一緒でいいのかな。
 土足禁止とかだったりしない?
 足が臭ったりしたらヤダ!

 あわあわしていると回り込んで彼が助手席の扉を開けてくれた。
 ますます居た堪れない。

「すみません。どのように乗れば……。」

 おずおずと質問した私の言葉に倉林支社長は目を丸くして、それから目を細めて言った。

「ハハッ。どのようにって普通でいいよ。
 西村さんのそんな可愛い質問が聞けるのなら車を取りに来た甲斐があるってものだね。」

 倉林支社長のリップサービスに文句を言う余裕もなく「お願いし、ます」とこわごわ乗り込んだ。
 体を預けたらどこまでも沈んで人間をダメにしそうなシートにもたれかかれずに体を固くした。

「新幹線でも良かったのだが、西村さんがいるしせっかくだしね。」

 意味深な言葉を口にするのはやめて欲しい。
 これにはさすがに思い直したのか付け加えて言った。

「話し相手がいない運転は寂しいでしょう?」

 それは分からないではないけど………。

 彼の言葉に同意していいのか分かり兼ねて空を彷徨った視線がエンジンをかけようとする彼の手元に釘付けになった。