「うわべなことは別にして。
 支社長は誰にも本性を出してないと思うの。
 きっと自分自身もどれが本心なのか見失うくらい本性をひた隠しにして来たんじゃないかしら。」

 本性をひた隠しに……。
 なんだか恐ろしくてゴクリと唾を飲み込んだ。
 その私の隣で松山さんはあっけらかんと口を開いた。

「ミステリアスな方が魅力的に見えるもの。」

「もう。松山さんは呑気なんだから。」

「フフッ。
 その辺は花音ちゃんに任せましょ。」

「厄介な人を……ま、頑張ってもらうしかないか。」

 二人から期待を込めた眼差しを向けられて、冗談でも「任せてください!」とは言えない。

 ははは……と曖昧な笑みをこぼして「そろそろ行きますね」と鞄を手にした。

 否定しようものなら何百倍にもなって返ってくるか、私の意見には耳も貸さないのどちらかなのだから、どっちにしても何も言わないのが得策だった。